コラム

デンマーク訪問記 ~世界一幸福度の高い国、デンマークは、おとぎの国?~

弁護士 村上 晃

1.日弁連調査

2009年8月末、日本弁護士連合会の貧困問題対策本部の調査で、デンマークに行く機会を得ました。デンマークといえば、アンデルセンの国であり、世界で最も幸福度が高い国とされています。日本は、今、貧困問題が深刻化し、格差が固定化しつつありますが、これをどのように解決していくべきかの手かがりとして、デンマークをはじめとした北欧の社会のあり方には注目が集まっています。

今回は、主としてデンマークの労働制作の調査を目的として、大学、労働組合、雇用者組合、雇用省、職業訓練校、ジョブセンター、生活扶助窓口などを訪問しました。

2.デンマークでも解雇は自由ではない

デンマークの労働制作の特長として、「フレキシキュリティ」という言葉が知られています。フレキシブルとセキュリティーが一緒になった造語のようですが、①柔軟な労働市場、②失業保険と社会保障、③積極的な労働市場政策のトライアングル(三角形)からなっています。つまり、雇用においては、雇いやすく解雇しやすく、失業したとしても再び雇用されるまでの失業保障が手厚い。しかも、職業訓練をはじめとした就労促進策が積極的に行われ、失業から再雇用への流れを作っているというものです。

チボリ公園を臨むアンデルセン像

チボリ公園を臨むアンデルセン像

デンマークに行く前、デンマークの制度について紹介したいくつかの本などを読みましたが、デンマークは、解雇規制については、解雇は自由であるかのような印象をもっていました。しかし、調査の結果は、確かに整理解雇は制限が緩いようですが、それ以外の理由による解雇の場合は、合理的な理由がなければ解雇することはできないということでした。この点、事前の情報や印象とは異なっていました。

3.労働組合が力を

デンマークでは、労働者の7割以上が労働者組合に属しています。労働組合は基本的には職種ごとに組織されていますが、これらの職種ごとの組合を傘下におく、大きな労働組合(通商LO)があります。ちなみにわが国の組合加入率は、2割弱です。また、企業も労働組合と同様の構造をもち、多くの雇用者組合を参加におく、大きな雇用者組合(企業連盟)(通商、DA)を作っています。デンマークにおいては、労働者の労働条件は、LOとDAとの「協約」によって基本的な労働条件が決められ、細かい条件については、傘下の各労働組合と各企業組合ないし企業との間で決められていきます。労働者は自分の属している組合に関連した失業保険に加入しています。LO以外にも労働者組合はありますが、基本的にはLOの労働協約に準じた労働条件になっているようです。デンマークでは、LOを中心とした労働組合が政治的にも大きな力をもっておりこのことが労働者の生活保障を厚くしている大きな要因であると感じました。

4.私が見たデンマーク

デンマークは、世界一幸福度の高い国、福祉国家のお手本のような国という印象をもっていました。しかし、デンマークの町には、空き缶拾いをしている人を何度か見かけました。生活扶助(生活保護)の支給日に支給窓口を訪問しましたが、移民が多く、雰囲気としては殺気立っている気配を感じました。ガードマンが奥への入り口を塞いでいました。町にはいたるところにペイントの落書きがありました。町のストリートには、ゴミが少なくありませんでした。

自転車で通勤する人が多いのには驚きました。自転車優先道路なのかもしれませんが、車道も含め、歩行者優 先ではないようであり、うろうろしているとスピードを出して走っている自転車にはね飛ばされそうでした。走っている車はいずれも相当年期の入った車ばかりでした。正確ではありませんが新車を買うと100%もの税金がかかるようであり、それが原因かもしれません。

もっとも驚いたのは、ほとんどの商店が5時になると閉店することです。日本では考えられないことです。デンマークでは残業はしないし、させないようです(時間外労働は、非常に高額になるようです)。ただし、飲食店は賑わっていました。

これで商売になるのかとも思いましたが、そう思う事自体が日本人的発想なのかもしれません。 調査を通じて感じたことですが、どこへ行っても予定した時間になると、終了を促されました。時間があってないような日本との違いを強く感じました。

5.高福祉・高負担

デンマークでは、消費税が一律25%かかります。たいていのものは日本よりも値段が高いと感じました。食べ物も例外ではないように思います。デンマークでは、国税、地方税を含め所得税は、50%になると言われています。それ以外にも食料品も含めて消費税25%がかかります。労働者の賃金水準は高く、社会保障の生活保障費も相当の水準です。長時間働かない、しかし、給料は高い、社会保障の水準も高い、どうしてこんなことが可能なのでしょうか。

デンマークは、格差が少ない国であると言われています。たとえば、子どもの貧困率は、日本のそれ(13%程度)とそんなに変わりません。しかし、所得再分配後の貧困率は、日本は、所得再分配後の貧困率の方が高くなるというOECD加盟30カ国の中で唯一のめずらしい(とんでもない)国ですが、デンマークでは、所得再分配後は、わずかに3%程度にまで改善されます。税や社会保障制度による所得再分配がうまく機能しているということが言えるのではないでしょうか。また、これほど高い税金を国民が支払っているというのも、教育や医療、老後の生活に対する不安が少ないことによるのでしょう。

6.デンマークの経済

デンマークには、大企業はありません。自動車産業はありません。レゴブロックで知られるレゴや、ロイヤルコペンハーゲン、デンマーク家具のような高級品、デザインに凝った製品、つまり付加価値の高い商品、医薬品など、いわゆる隙間産業がデンマークの企業の特長であるようです。また、デンマークは、他のヨーロッパ諸国と違いストライキが少ないことから、海外からの投資が集まるという事も聞きました。しかし、それだけで、ヨーロッパの中でもドイツなどより高い経済成長率を上げ、高い賃金を維持している理由については今回の調査ではよく分かりませんでした。

7.苦悩しつつあるデンマーク

現在、デンマークもさまざまな問題を抱えつつあるようです。移民の増加、EU加盟による制度の変更、またデンマークにおいてもグローバリゼーションは無関係ではなくなっているようです。空き缶を拾っていた人、ストリートパフォーマンスをしていた人も移民だったかもしれません。移民との関係かもしれませんが労働組合に加入しない人も増えているようです。生活扶助の窓口にあふれていた人もその多くは移民だったと思います。職業訓練校の生徒も多くは移民の子でした。4年間であった失業保険が2年間になったことや、年金の支給年齢の引き上げについても、検討されつつあるようです。

今回訪れたデンマークは、決して幸福度世界一という印象はなく、またおとぎの国でもなく、むしろ日本と同様、程度やレベルの違いはあれ、現実的な問題の前に苦悩しつつある国として写りました。

8.さて日本は

政府は、デンマークのような「高福祉」「高負担」の国ではなく、「中福祉」「中負担」の国を目指そうとするかのよ うです。もっとも、国として「高福祉」を目指さないでどうするのかと思います。「中福祉」というのは、要するに場当 たり的な、その場しのぎ福祉を行うということを意味するのではないでしょうか。デンマークの例をあげると、それは 人口が北海道程度の小さな国だからできることだと言われることがあります。デンマークの制度をそのまま日本に 持ち込むことはできないとしても、さまざまに学ぶべきことはあるように思います。

今年は、10月に行われる高松での日弁連の人権擁護大会のシンポジウムにおいて、わが国の目指すべき福祉 国家のあり方を提言してみたいと考えています。

{2011年1月発行『かがり火』(事務所ニュース)より転載}

 

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